電気回路T 第10週 講義内容とレポート課題
本日の内容
1.正弦波電圧・電流のフェーザ表示
2.回路解析へのフェーザ応用
5章 交流回路の解法
【先週の復習とポイント】
5−3 複素数の交流回路への応用
5−3−1 複素数の記号法と表示法
(1)記号法
・高校までに習ってきた複素数を,複素平面上(x軸に実部,y軸に虚部)の複素ベクトルとして扱うことにした。
・複素ベクトルとして虚数単位jを考えると,それは絶対値が1で位相を90度進ませるオペレータである。
(2)表示法
・複素ベクトルの表示法としては,実部・虚部の大きさを用いる【直角座標表示】の他,ベクトルの絶対値と偏角を用いる【極座標表示】,【指数関数表示】,【フェーザ表示】がある。
5−3−2 複素数の四則演算
(1)直角座標表示に基づく四則演算
・加減算は実部・虚部それぞれの加減算に帰着
・乗除算は有理化やら何やら大変!!
(2)フェーザ表示を用いた場合の乗除算
・フェーザ表示は,指数関数表示の係数(ベクトルの絶対値)と角度(偏角)を取り出して表示したものなので,乗除算は係数の乗除と角度の加減算に帰着する。
複素ベクトルをフェーザとしてその絶対値と位相角で表現して演算することを学んだ
⇒ 今週は時間関数である交流電圧・電流を複素ベクトルを使って表現し電気回路を解くことを学ぶ
5−4 フェーザを応用して交流回路を解く
【本節の目標】 交流電圧・電流を複素平面上のベクトルとして扱い,定常状態で流れる電流の解法を,電圧ベクトルに対して大きさと位相が異なる電流ベクトルを求める問題へ帰着させる
※ 以下では,複素数にテキストで使っているベクトルを表すドット(・)冠の代わりに,’を付けて区別する。
5−4−1 正弦波電圧・電流をフェーザ表示する
交流回路の電圧と電流は,時間関数として次式で定義されている。ここで,θはt = 0における初期位相。
v(t) = V_m sin(ωt
+θ), i(t)
= I_m sin(ωt +θ−φ)
上式を指数関数表示を用いて表現すれば,オイラーの公式:ε^(jθ) = cosθ+ j sinθを思い出して次式で与えられる。
v(t) = Im{V_mε^(jωt +θ)}, i(t) = Im{I_mε^(jωt
+θ−φ)}
これは,図5.8(a)のように,複素平面上で反時計回りに角速度ωで回転している複素ベクトルv’,i’ (それぞれの絶対値がV_m,I_m)の虚軸への投影がv(t),i(t)であることを示している。
今,図5.8(a)において,我々も角速度ωで反時計回りに回転しながらベクトルv’,i’を見たとしよう。
すると,我々とベクトルとの相対速度は無くなるため,2つのベクトルは偏角φを保って静止して見えるだろう。
従って,以降ではこの静止している(時間の概念を取り払ったと考えれば良い)複素ベクトルを大文字を使って表現(すなわち,“時間関数では無い”の意味)して,電圧フェーザV’,電流フェーザI’と呼び,その絶対値と位相角に注目することとしよう。
そこで,回転している座標上で改めて図3.8(b)のように虚軸・実軸を定義すれば,各フェーザは次式のように定義できる。
V’ = V_m/√(2)ε^(jθ) = Vε^(jθ) = V∠θ
I ‘= I_m/√(2)ε^{j(θーφ)} = Iε^{j(θーφ)} = I∠(θーφ)
ここで,各フェーザの絶対値はV = V_m/√(2),I
= I_m/√(2)と定義され,元の電圧・電流波形の振幅の1/√(2)倍である。(その理由は今後の講義で明らかにされます)
この絶対値(振幅の1/√(2)倍)を交流回路の電圧実効値,電流実効値と呼び,交流計器の指示値と一致する。
いま,ε^(jθ)は複素平面上で大きさを保ったまま(絶対値1の意味)θだけ位相を進ませるオペレータであることを思い出すと,元々の電圧・電流の瞬時値(時間関数)は,電圧・電流フェーザV’,I’を使って次式で与えられる。
v(t) = √(2) Im{V’ε^(jωt)}, i(t) = √(2)
Im{I’ε^(jωt)}
5−4−2 フェーザを交流回路へ応用する
(1)フェーザに対する微分と積分オペレーション
フェーザを使って表現した瞬時値に対して,微分と積分を行ってみよう。
電流i(t)を例にとってみると,I’ε^(jωt) = Iε^{j(θーφ)}ε^(jωt)であり,ε^(jωt)のみが時間関数であるから,
d/dt[ε^(jωt)]
= d/dt[cosωt + j sinωt] = −ωsinωt + jω cosωt = jω{cosωt + j sinωt} = jωε^(jωt)
などのようにして,次のようになる。
【微分演算】 d i(t)/dt = √(2) Im
{ d/dt[I’ε^(jωt)]} = √(2) jω Im { I’ε^(jωt)}
【積分演算】 ∫i(t) dt = √(2) Im
{∫[I’ε^(jωt)] dt} = √(2) (1/jω) Im
{I’ε^(jωt)}
上記微分・積分演算結果をみると,元々のフェーザを使った時間関数(5.24)式に対して,微分はjωを,積分は1/jωをそれぞれ乗ずるだけのオペレーションに簡略化されていることが分かる。
すなわち,
微分はフェーザをω倍して90度位相を進ませる
積分はフェーザを1/ω倍して90度位相を遅らせる
オペレーションと見なすことができる。
(2)RL直列回路とフェーザ図
そこで,早速RL直列回路を例にとって,フェーザを適用してみよう。
RL直列回路の電圧方程式に上記の結果を施し,フェーザのみを取り出すと以下となる。
v(t) = R i(t) + L
d i(t)/dt ←(3.24)式を代入
√(2) Im{V’ε^(jωt)} = Im[R√(2) Im{I’ε^(jωt)}
+ jωL√(2) Im{I’ε^(jωt)}]
⇒ V’ = R I’ + jωL I’ = (R
+ jωL)I’
上式のV’とI’の関係(絶対値と位相)を表す(R
+ jωL)に着目して,複素平面上に電圧と電流のフェーザを描くと図5.9のようになり,これをフェーザ図又はベクトル図と呼ぶ。
ここで,図の描き方のコツは次の通り。
1)R
I’は,I’と同方向でその大きさをR倍する
2)jωL I’は,I’より90度進みの方向でその大きさをωL倍する
3)I’の基準点を出発して,R I’とjωL I’を加えたベクトルがV’となる
(3)インピーダンスと電流の絶対値と位相
本節の目的である【交流回路の定常状態における電流の大きさと位相を求める】ことに着目すると,(5.26)式から以下が導き出される。
V’/I’ = (R + jωL) = √{R^2
+ (ωL)^2}ε^(jφ), φ= tan^(-1){(ωL)/R}
ここでV’/I’
= Z’と定義して,それをインピーダンスと呼ぶ。インピーダンスは,電流フェーザに対する電圧フェーザの関係(絶対値の比と位相の差)を示すフェーザである。
上式から,RL直列回路の場合,インピーダンスを使って電圧に対する電流は
絶対値の比: 1/√{R^2 + (ωL)^2}
位相の差: tan^(-1){(ωL)/R}, 電圧に対して電流が遅れ
となることが分かる。
この結果は5.1節で微分方程式を解いて定常状態とした結果と一致しており,(5.26)式の代数方程式を解くだけで,インピーダンスの絶対値と位相に着目すれば電流が解けることになる!!
これが交流回路の定常解析に対する【微分方程式を代数方程式で解くフェーザ法】の本質である。
[レポート課題]
(1) “フェーザに対する微分と積分”の式(テキスト79ページ中段の枠内)を導出しなさい。
(2) 例題5−3
(3) RL並列回路に対して,電源電圧をv(t),電源を流れる電流をi(t),Rを流れる電流をi_R(t),Lを流れる電流をi_L(t)とし,それぞれに対応するフェーザをV’,I’,I’_R,I’_Lとする。
(a) (5.25)式に倣ってi(t)に対する方程式を立てなさい
(b) (5.26)式に倣ってフェーザの関係式を求めなさい
(c) この回路のインピーダンスZ’を求めなさい
(d) 電源電流の電源電圧に対する絶対値の比と位相の差を求めなさい
(4) (3)と同様にして,RC並列回路の電流に関して解きなさい。