電気回路T 第9週 講義内容とレポート課題
本日の内容
1.複素数の記号法と表示法
2.複素数の四則演算
5章 交流回路の解法
【先週の復習とポイント】
5−1 交流回路の定常状態
・RL直列回路を例にとって,直流回路と交流回路の電流をラプラス変換で解き,両者を比較してみた。
・定常状態(t =∞)として両者の電流を比較した結果,交流回路の場合には電源電圧と同じ角周波数の正弦関数となっており,電圧と電流の違いはその振幅と位相の変化であった。
5−2 基本的な交流回路の定常状態
・RL直列回路の電流を,電源電圧と同じ角周波数の正弦関数としてその振幅と位相が異なるものと仮定し,正弦波の合成として解いてみた。
・その結果は,微分方程式を解いて定常状態を求めたものと一致した。
電流の扱い(仮定)は納得できたが,いつも煩雑な正弦波の合成をしなくてはならないのだろうか?
もっとスマートな解法はないものだろうか?
⇒ 今週はその準備段階としての数学的道具(複素ベクトル)を学ぶ
5−3 複素数の交流回路への応用 〜微分方程式を代数方程式で解く〜
【本節の目標】 交流電圧・電流を複素平面上のベクトルとして扱い,電流の解法を電圧ベクトルに対して大きさと位相が異なる電流ベクトルを求める問題へ帰着させる
5−3−1 複素数の記号法と表示法
※以下では,複素数にテキストで使っているベクトルを表すドット(・)冠は省略しているので注意
(1)記号法
実部がaで虚部がbの複素数zを,虚数単位jを用いて次式で表す。
z = a + jb = Re{z} + j Im{z}
この複素数に対して,2次元平面のx軸方向に実部を,y軸方向に虚部をそれぞれ取って図3.6のようにベクトルとして扱う場合,zを複素ベクトルと呼ぶ。また,z* = a−jbを共役複素ベクトルと呼ぶ。
図5.6から分かるように,複素ベクトルはその大きさ(絶対値)|z|と実軸との偏角θによって規定される。ここで,大きさと偏角は次式で定義される。
|z|= √{a^2
+ b^2}, θ
= tan^(-1){b/a}
(2)表示法
【直角座標表示】
図5.6に従って実部と虚部の大きさによって表示する方法
z = a + jb
ここで,虚数単位jは,その大きさ(絶対値)が1で,偏角を90度進ませるオペレータであることに注意。
【極座標表示】
複素ベクトルはその大きさrと偏角θが与えられれば唯一に決まるので,極座標(r,θ)を持った点として表現する方法
z = r(cosθ
+ j sinθ), r = |z|= √{a^2
+ b^2}, θ = tan^(-1){b/a}
【フェーザ表示】
大きさと偏角をもって表現する極座標表示に従った次式の表示法
z = r∠θ
ここで,rをフェーザの絶対値,θを位相角と呼ぶ。
【指数関数表示】
オイラーの公式
ε^(jθ) = cosθ + j sinθ
を用いて,複素ベクトルを絶対値rと位相角θによって表現する方法
z = rε^(jθ)
ここで,ε^(jθ)は絶対値が1で位相をθだけ進ませるオペレータであることに注意。
5−3−2 複素数の四則演算
(1)直角座標表示に基づく四則演算
【加減算】
z_1 ± z_2 = (a_1 ± a_2)
+ j(b_1 ± b_2)
【乗除算】
z_1 ・ z_2 = (a_1
+ jb_1)(a_2 + jb_2) = a_1 a_2 −
b_1 b_2 + j(a_1 b_2 + a_2 b_1)
z_1 / z_2 = (a_1 + jb_1) / (a_2
+ jb_2) ={a_1 a_2 + b_1
b_2 + j(a_1 b_2 ― a_2 b_1)}
/ {a^2 + b^2}
乗除算が大変であることは明白!!
(2)フェーザ表示を用いた場合の乗除算
指数表示を使って乗除算を行えば,次式のようになる。
z_1 ・ z_2 = {r_1 ε^(jθ_1)}{
r_2 ε^(jθ_2)} = r_1 r_2 ε^{j(θ_1 +θ_2)}
z_1 / z_2 = {r_1 ε^(jθ_1)}
/ { r_2 ε^(jθ_2)} = r_1 / r_2 ε^{j(θ_1 ―θ_2)}
従って,フェーザ表示を用いれば絶対値の乗除算と偏角の加減算によって次のように簡単に計算できる。
z_1 ・ z_2 = r_1 r_2 ∠(θ_1 +θ_2)
z_1 / z_2 = r_1 / r_2 ∠(θ_1 −θ_2)
[レポート課題]
(1) 例題5−2
(2) z_1 = 2∠45°,z_2 = 3∠(−30°)とするとき,
(a) z_1,z_2をそれぞれ複素平面上に描き,それらのなす角θ_12を求めよ。
(b) z_1 ・
z_2,z_1
/ z_2を計算せよ。
(c) z_1,z_2を直角座標表示し,z_1 + z_2,z_1−z_2をそれぞれ計算せよ。