電気回路基礎U 第7週 講義内容とレポート課題
本日の内容
1.RLC回路の瞬時エネルギーと瞬時電力
2.平均電力と実効値
3章 交流回路の解法
【中間試験前までの復習とポイント】
3−1 交流回路の定常状態
RL直列回路を例にとって,直流回路と交流回路の定常状態(t =∞)における両者の電流を比較した結果,交流回路の場合には電源電圧と同じ角周波数の正弦関数で,電圧と電流の違いはその振幅と位相の変化である。
3−2 基本的な交流回路の定常状態
RL直列回路の電流を,電源電圧と同じ角周波数の正弦関数としてその振幅と位相が異なるものと仮定して正弦波の合成として解いてみると,その結果は,微分方程式を解いて定常状態を求めたものと一致する。
電流の扱い(仮定)は納得できたが,それは煩雑な正弦波の合成を余儀なくするため,もっとスマートな解法を考える。 ⇒ その準備段階としての数学的道具(複素ベクトル)を学ぶことからスタートする。
3−3 複素数の交流回路への応用
3−3−1 複素数の記号法と表示法
(1)記号法: 複素数を複素平面上(x軸に実部,y軸に虚部)の複素ベクトルとして扱う。複素ベクトルとして虚数単位jを考えると,それは絶対値が1で位相を90度進ませるオペレータである。
(2)表示法: 複素ベクトルの表示法として,実部・虚部の大きさを用いる【直角座標表示】の他,ベクトルの絶対値と偏角を用いる【極座標表示】,【指数関数表示】,【フェーザ表示】がある。
3−3−2 複素数の四則演算
(1)直角座標表示に基づく四則演算: 加減算は実部・虚部それぞれの加減算に帰着
(2)フェーザ表示を用いた場合の乗除算: フェーザ表示を用いれば,乗除算は係数の乗除と角度の加減算に帰着する。
複素ベクトルをフェーザとしてその絶対値と位相角で表現して演算する。 ⇒ 時間関数である交流電圧・電流を複素ベクトルを使って表現し電気回路を解くことを学ぶ。
3−3−3 正弦波電圧・電流のフェーザ表示
(1)電圧・電流フェーザの定義: 交流回路の正弦波電圧・電流を,複素平面上で反時計回りに角速度ωで回転している複素ベクトルv’,i’ の虚軸への投影v(t),i(t)と考え,角速度ωで反時計回りに回転する座標系に投影した静止している複素ベクトルを大文字を使って表現して,電圧フェーザV’,電流フェーザI’と呼び,その絶対値と位相角に注目する。
(2)電圧・電流実効値の定義: 電圧フェーザ,電流フェーザの絶対値を元の瞬時値振幅の1/√(2)と定義し,それを実効値と呼ぶ。実効値は,交流計器の指示値に一致する
3−3−4 回路解析へのフェーザ応用
(1)フェーザに対する微分と積分オペレーション: フェーザを使った瞬時値(振幅を√(2)倍し,ε^(jωt)を掛けて時間関数にして,その虚数部を取る)に対して微分・積分を行うと,微分はjωを,積分は1/jωをそれぞれ乗ずるだけのオペレーションに簡略化される。
(2)RL直列回路とフェーザ図: 電圧フェーザと電流フェーザの関係を複素平面上に描いたものをフェーザ図(ベクトル図)と呼ぶ。
(3)インピーダンスと電流の絶対値と位相: 電流フェーザに対する電圧フェーザの関係(絶対値の比と位相の差)を示すフェーザをインピーダンスと呼ぶ。
時間関数である交流電圧・電流を複素ベクトルを使って表現し,インピーダンスを求めることで電気回路を解く。 ⇒ インピーダンス・アドミタンスを自在に計算する手法を学ぶ
3−3−5 インピーダンスと電圧・電流の関係
(1)RLC直列回路の電圧降下とインピーダンスの関係: RLC直列回路を例にとって,回路素子に対する電圧降下から各素子のインピーダンスを検討した。
【抵抗】 I’に対してV’_Rは同位相
【インダクタンス】 I’に対してV’_Lはπ/2位相が進む
【キャパシタンス】 I’に対してV’_Cはπ/2位相が遅れる
インダクタンスとキャパシタンスのインピーダンス絶対値をリアクタンス,X_L = ωLを誘導性リアクタンス, X_C = 1/(ωL)を容量性リアクタンスと呼び,リアクタンスの単位は抵抗と同様 Ωである。
(2)合成インピーダンスと力率角: 回路全体のインピーダンスZ’は,直列回路の場合各素子のインピーダンスの単純な和で表され,それを合成インピーダンスと呼びインピーダンスのベクトル図から力率角φが決定される。
3−3−6 インピーダンスとアドミタンス
電圧フェーザに対する電流フェーザの比も定義でき,アドミタンスY’と呼び,その単位は S(ジーメンス)である。
合成アドミタンスは並列回路の場合各素子のアドミタンスの単純な和で表される。
【今週の講義内容】
3−4 交流回路のエネルギーと電力
【本節の目標】 RLC直列回路を例に,そこで発生するエネルギーに着目して電力について詳しく検討する。
3−4−1 RLC回路の瞬時エネルギーと瞬時電力
RLC直列回路の電圧方程式は,次式で表される。
v(t) = v_R(t) + v_L(t) + v_C(t) = R i(t) + L {d i(t)/dt}
+ v_C(t)
両辺に
i(t)又は i(t) = C{d v_C(t)/dt}を掛けて変形すると,回路に発生する瞬時電力 p(t)は次式で表される。
i(t)・v(t) = p(t) = R i(t)^2 + L i(t) {d i(t)/dt} + C
v_C(t) {d v_C(t)/dt} = R i(t)^2 + 1/2 L {d i(t)^2/dt} + 1/2 C {d v_C(t)^2/dt}
= p_R(t) + p_L(t) +
p_C(t)
上式
p(t)をテキスト1−4節の議論(消費電力の時間積分がエネルギー)に従って時間積分すれば,回路に発生する瞬時エネルギー h(t)が次式で計算される。
h(t) = ∫p(t) dt = ∫R i(t)^2 dt + 1/2 L i(t)^2 + 1/2 C v_C(t)^2
= h_R(t) + h_L(t) + h_C(t) =【熱エネルギー】+【電磁エネルギー】+【静電エネルギー】
3−4−2 平均電力と実効値
(1)平均電力の定義
電力に対する定常解析には,周期 T(= 1/f = 2π/ω)の正弦波交流を前提に,次式のように瞬時電力に対する時間平均で定義される平均電力 Pをもって行う。
P = 1/T∫p(t) dt, ここで,積分区間はt = 0からTまで
一般に,この平均電力を消費電力と呼び,その単位はWである。
(2)電力と実効値
RLC直列回路の各素子に対する消費電力を,i(t) = I_m sinωtとして計算してみよう。
【抵抗】
P_R = 1/T∫p_R(t)
dt = 1/2 R I_m^2 = R{I_m/(√2)}^2
【インダクタンス】
P_L = 1/T∫p_L(t)
dt = 0
【キャパシタンス】
P_C = 1/T∫p_C(t)
dt = 0
上記の結果,インダクタンスとキャパシタンスは,平均的には電力を消費しない(瞬間的には電力の行き来があると解釈する⇒図3−18を参照,電源1周期で電力の授受が等しい)ことが分かる。
抵抗の消費電力
P_Rに着目しよう。以前に定義した実効値
I = I_m/(√2)を使えば,P_R = R I^2となって直流回路での抵抗消費電力と同形となり便利である。
そこで,この抵抗での消費電力の考え方を元に,交流計器の指示値である実効値を次式で定義することにし,電圧・電流に適用する。
I = √[1/t∫i(t)^2 dt] = I_m/(√2)
実効値は,電圧や電流の瞬時値に対して二乗を平均して平方を取るということで”rms(root mean square)値”とも呼んで,例えばその単位を[Arms]と区別して用いることもある。
[レポート課題]
(1) (3.38)式を導出しなさい。
(2) (3.40)式に基づいて,抵抗・インダクタンス・キャパシタンスで消費する平均電力(テキストp.57の枠内に相当)をそれぞれ導出しなさい。
(3) 電源電圧実効値V = 100 V,電源周波数f = 60 Hz,抵抗R = 10
Ω,インダクタンスωL = 5
Ω,キャパシタンス1/ωC = 8 Ωの時,図3−18に倣ってそれぞれの電圧,電流,電力の瞬時波形を数値を入れてグラフ用紙に描きなさい。
(4) (3.42)式を,実際にi(t) = I_m sinωtを代入して導出しなさい。